楓拭漆箱「湖上月夜」
すべて箱と名が付くものは本来入れる中身のためにあるはずだが、いつからか箱そのものに価値を置くようにもなった。中身やその目的のためではなく、箱そのものが美しく、鑑賞、愛玩の対象にする、私はこのような日本独特の文化が好きだ。何かを入れることはできるが、それが目的ではない、内部に空間を持った美しい立体。いつのころからかそんなスタンスで箱を作り始めていた。
この作品の極端に長い形は全体に舟のイメージから来ており、月夜の湖上に静かに漕ぎ出でる、静謐を求める心象を形にした。箱に付きものの「蓋と身」の関係が解体され、全体が一つの立体として抽象化している。