「 今 月 の 是 眞 」

~展示室より~

 

柴田是眞が原画を描き 日本橋はいばらが出版した刷り物「花くら遍」。

ギャラリーでは季節に合った画題の作品を展示中です。

 

 季節は夏真っ盛り。今年の暑さは格別です。そこで涼しげな「朝顔」、透明感のある花弁は露を含んだ朝日のなか、たった今開ききったかのようです。真正面からとらえた花は、幼かった頃の押し花を思い起こさせます。

 すぐしぼむ朝顔に対して「芙蓉」は真昼のギラギラした太陽の下で暑さに抗うように咲き乱れます。 

 ところが「向日葵」はその灼熱の太陽とまるで友達のようで、キリギリスまでもが暑さに負けじと花にとまっています。今年の6月にイタリア・チェルタルド市で作品展を開いた御縁で、市長さんが先日当ギャラリーにお出で下さいました。向日葵ーヒマワリとイタリアとくればすぐに思い出すのがヴィットーリオ・デ・シーカ監督の映画“ヒマワリ”マルチェロ・マストロヤンニソフィア・ローレンが主演した1970年、私の青春時代真っ只中の思い出深い映画です。今思い出しても戦争に翻弄された悲しい物語でした。

 果たして30代も前半の若い市長さんにとっては「歴史的名画」の一つのようでした。

 

 さて、暑い時はやはり水辺が恋しくなります。夏に大きな葉を広げる「鬼蓮」の下に蛙も潜りたいようです。夏の野菜といえば「胡瓜」。今では一年中出回りますが、夏の朝まだ薄暗いうちに収穫した完熟一歩手前の小ぶりの胡瓜の味わいは格別です。田舎暮らしのいいところは、自分で作らなくてもご近所からの到来ものがあるところですね。是眞の目は愛でるための花ばかりではなくこんなものにも注がれます。そして最後の一枚は是眞ならではの洒落の一枚。ハナはハナでも「象の鼻」。上野動物園には明治21年(1888)「シャム皇帝より贈られたアジアゾウのペア初来園」の記録がありますから、是眞は実際に見たのでしょうか。