このたび、家具道具室内史学会会長の小泉先生の発案で、
利休桑文机の復元模造を製作することとなりましたので、その詳細をご案内致します。
7月14日(土)は実物を前に先生と対談を致します。
ご聴講をご希望の方は、後述の家具道具室内史学会連絡先からお申し込みください。
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木工藝、なかでも指物を仕事にする者にとって茶道具はゆかりの深いものである。
実際に棚物など道具を作ることも多い。また木工藝の歴史を振り返ってみても桃山時代以降の侘び茶の展開・成熟が、その後指物でつくられる家具什器に与えた影響は計り知れない。村田珠光による竹台子の創案などは唐様の喫茶習慣から和様の茶道への転換を象徴し、和風指物の濫觴ともいえよう。またそれは本邦産の杉、桐、桑、松などの素木に価値を見出す日本木工史の一つのエポックを生み出した。
その時代に作られたと考えられる利休文机と呼ばれる桑製の文机について茶道具寸法録に記載がある。しかしどの寸法録にも記載があるわけではなく、現行入手可能な啓草社発行の「茶道具寸法録・正、続、続々」には記載がない。ただこの啓草社版の底本になったと思われるものや、たとえば竹内久一旧蔵になる江戸末期の指物師の手控えには記載がある。今回の小泉先生との対談のフライヤーなどに記載されている図はこれらのものと同類と思われ、おおよその寸法が一致する。
この利休文机を、日本の家具史・木工史の中で重要文化財クラスと高く評価する家具道具室内史学会会長の小泉先生の発案で復元模造を製作することとなった。
確かに日本は「木の国」「木の文化の国」と言われながら、純粋に木工品と呼べるものが高い評価を得ていないことは残念ながら事実である。今回の製作の試みは、この文机の美点と技法上の特徴を明らかにして、再評価し木工史の中、さらに日本の美術史、文化史の中にきちんと位置づけようとするものだろう。
しかし難しい問題がある。それはこの寸法録に見合う当時の作品が今に伝わっていないのだ。寸法録はあるが、本件に限らず寸法録を頼りにしようとしても、製作に必要な各部分の細かい寸法や内部の仕口の記載がないことが多く、製作は困難を極める。それはこれらの寸法録が作り手によって書かれたものではなく、ある時代に伝わってきている出来上がった茶道具から寸法のみを、それも作り手でない者が採取した結果と思われる。
そこで私は通常、茶道具の製作にあたっては多くを父が残した図面に拠っている。この図面は父が長い時間を費やし、昔のものを修理した時や実物に触れたときに、製作者の目で採寸・記録したものである。これがなければとても製作できない貴重なものである。簡単そうに見える炉縁にしても四隅は特殊な仕口で組み合わさり、内側の面取りも微妙な角度をしている。これらの寸法や仕口にどこまで合理的理由があるかは定かではない。だがしかし、そこが茶道具たる所以であり変えることはできない。
この文机もこの例外ではない。寸法録だけでは製作不可能である。実物にあたるしかないが前述のようにこの寸法録に該当する実物は寡聞にして知らない。そこで今回の製作にあたっては小泉先生著の別冊太陽「和家具」に掲載されている「利休文机」を参考にした。幸いこの机に関しては木工の専門家が採取・製図した詳細な図面があり、これに拠って製作することとした。
ただこの机の特徴として、複数の寸法録に記載された利休文机と比較して若干寸法が小さい。またさらに大きく異なるのは筆返しの高さである(筆返しに関しては寸法録記載の寸法に疑問がなくはない)。
このように図面で判別できることはそれに従ったが、例えば仕口の内部まで情報を得るにはおのずと限界があり、図面に現れない制作上の要点は一般的木工の原則と私の解釈に拠ることとした。いずれにしろ間口三尺、奥行き一尺二寸五分前後ありながら、甲板の厚さは六分(約18㎜)という薄さは共通である。いくら粘り強く細かい細工に向く桑とはいえ、その薄い甲板に直に脚の枘を指すこの机はよほど仕口の精度がよくなくてはもたない。さらに筆返しを兼ねる端嵌(はしばみ)の仕事は他に類型の無い興味深いものである。
この復元された実物を前に小泉先生と私が対談をさせていただくことになった。実はまだ製作途上であり、今後の困難な製作を考えるとこの企画を今の段階で告知することには若干躊躇するが、多くの方にこの机の存在を知っていただきその価値を共有していただきたくお知らせします。
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対談「至高の美―利休桑机を製作して」
日時:7月14日(土)13:00~15:30
会場:昭和のくらし博物館(東京都大田区南久が原2-26-19)
東急池上線久が原駅または多摩川線下丸子駅より徒歩8分
お申込・お問合せ先先:
家具道具室内史学会事務局
電話:090-8517-4820(火~金9:00~18:00)
メール:mail@jpshift2008.org
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