【展覧会】「名工の明治」展/東京国立近代美術館工芸館

現在、竹橋の東京国立近代美術館工芸館では「名工の明治」という展覧会を開催中です。この展示作品中に、同館収蔵の父や私の作品もあると聞き行ってきました。

「名工の明治」展/東京国立近代美術館工芸館

「名工の明治」との企画ですから、第1室は「明治の技の最高峰―帝室技芸員」と題して始まります。金工の加納夏雄や私の外祖父・山口春哉の師のまた師である池田泰眞の作品など、綺羅星の如く輝くまさに明治の名工の作品を見ることができます。今回は工芸館の展覧会では珍しく、ところどころ作品に解説文が添えられており、1番から20番まで番号が付されていますが、その1番目は夏雄の手板3種を硯屏のようにまとめた作品でした。彫金の技もさることながら、収めた黒柿の枠が良いものでした。鶉杢の黒柿は端然と仕上げられ、ダレたところのない指物の特徴を余すところなく表していました。木工家はこんなところに目が行きます。泰眞の屏風は初めて見ました。屏風の枠は島桑が使われやはり時代を感じます。この時代はやはり桑といえば島桑だったのです。

第2室はこの展覧会の眼玉である「鈴木長吉と十二の鷹」です。これまで何度か目にしていますが、今回本格的な修復が済み、長く失われていた「鉾垂れ」が復元されて初めてのお披露目です。言うまでもない傑作ですが、改めてその迫力に圧倒され思わず立ち止まってしまいます。

その後第3室では、その後のいうなれば伝統工芸の第一世代:松田権六や板谷波山の作品が展開されます。このあたりからはよく知る名前に気が付きます。

そして第4室。「技を護る・技を受け継ぐ」として今日の展開が紹介されています。私は展覧会のタイトルだけを見て「明治の名工」だけの展覧会かと思っていたのですが、それから始まる工芸の展開が紹介されるものでした。第4室は知った名前や現在も活躍中でお付き合いのある作家の作品も多く、明治から続く、いやもっと以前から続く工芸の最先端を見ることができます。この場合の工芸はあくまで正統的工芸のことです。

「名工の明治」展・父桑翠作「槐座右棚」/東京国立近代美術館工芸館

ここで父の作品「槐座右棚」が工芸館唯一の畳の間に置かれています。あまり明るくないスポットの中に端座した作品は、あくまでも静かに感じられます。向かい合っていると周りの人の声も聞こえなくなるようです。今年でちょうど作られてから50年です。50年前の制作中のこともよく覚えています。

父は槐がとても好きでした。ただ槐にはあまり大径木はなく、ですからこの作品でも柾目を大体3枚矧いで使っています。そのため、かえって槐独特の柾目面の色の濃淡や色味の変化が繰り返され心地よいリズムになっているように思います。

これは拭漆と言っても、近年伝統工芸展でよく見られるようなとっぷりと漆を残したものと違い、薄めた漆を数回さっと拭漆にしたものですが、材の持ち味を良く引き出しています。木工藝とはかくありたいと思います。

また金具は銀ではなく四分一系の鋳物です。木型を作り工芸会の金工の仲間にお願いしたもので金を含んだ合金はいい色になっています。私が通常作っている、銀地金を蝋付けして作る錺金具と違って、量としての面白さがあります。と言っても武骨ではなく適当な、塊としての金属の量感に好感が持てました。柾目の方向を無理にそろえることなく、その部分にふさわしい木取りをした結果、自ずと生まれる変化が美しく、木工藝の美質を表現しているように思えました。押しつけがましくない、謙虚で控えめさを感じさせる作風は如何にも父らしく、久しぶりにゆっくり対座してきました。

須田賢司作「黒柿小箪笥」・「名工の明治」展/東京国立近代美術館工芸館

そしてこの4室の最後に私の作品「黒柿小箪笥」が陳列されています。私が40歳を過ぎて初めて伝統工芸展で奨励賞を頂いた思い出深い作品です。左右に分かれる形式の小箪笥に本格的に取り組んだ最初の作品で、丸太で買った黒柿から取った縞模様の「縞柿」が横長の作品によく合っています。というよりこの材に出会ってこの形態が生まれたのです。金具造りにも工夫をし、前面の金具の一部には法隆寺の幡の飾金具のモチーフを用いています。また紐は組紐師に特注したものです。

 

この展覧会にはいくつかの作品に解説が付いていると最初に触れましたが私のこの作品が20番目で最後です。加納夏雄の作品で始まった解説が私の作品で終わるとは、とてもうれしく光栄なことです。明治の名工からの歴史の最後尾に加えていただいたことになりますし、言い換えれば最先端とも言えるわけで、これは望外のことというべきでしょう。精進したいと思います。

お互い工芸館所蔵になっていても、父の作品と私の作品が同時に展示されるのは初めてのように思います。何か高揚する気分を持って工芸館を後にしました。皆さまにもぜひご高覧いただければ幸いです。

 

 一点補足をしますと、この展覧会はいつもの工芸館の展示と異なり、2階の左側の部屋から時計回りの順路となっています。私はうっかりいつも通り右から見てしまい途中で気が付きました。右から入ると真っ先に私の作品があり「あれっ」となります。

 

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東京国立近代美術館工芸館 「名工の明治」展

 Webサイト  http://www.momat.go.jp/cg/exhibition/meiko_2017

 出品目録 http://www.momat.go.jp/cg/wp-content/uploads/sites/4/2018/03/j_meikolist_0329.pdf

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コメント: 2
  • #1

    鈴木益世 (木曜日, 12 4月 2018 19:44)

    先生の解説を伺って早く見たくなりました❗明日いってきます��ご案内有り難うございました。今後も楽しみにしております。

  • #2

    須田賢司 (金曜日, 13 4月 2018 10:05)

    ありがとうございます。所蔵品展ですが、大変見ごたえのある展覧会でした。